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札幌地方裁判所 昭和61年(行ウ)11号 判決 1987年11月17日

原告 遠藤勝之進

被告 室蘭市長

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が、訴外青果物卸売業者丸果青果株式会社に対し、昭和六一年三月二六日承認番号一五―三一号をもつてなした別紙記載の品目、販売期間及び販売方法による非取扱物品販売許可処分は無効であることを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

1  本案前の申立

主文同旨

2  本案についての申立

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  北海道室蘭市は、卸売市場法(以下、単に「法」という。)に基づき、農林水産大臣の認可を受け、室蘭市日の出町二丁目三番一号において室蘭市中央卸売市場を開設している。

2  被告は、同市場の卸売業者である訴外丸果青果株式会社(以下、「訴外会社」という。)から、同社の非取扱物品である「花き」の卸売の販売許可申請を受け、同社に対し、室蘭市中央卸売市場業務条例(以下、単に「条例」という。)施行規則四八条に基づき、昭和六一年三月二六日承認番号一五―三一号をもつて、別紙記載内容の非取扱物品販売許可処分(以下、「本件処分」という。)を行つた。

3(一)  原告は、法九条二項六号、条例二九条に基づき、同市場において、被告の許可を受け、市場付属売店として花き園芸品販売を営む室蘭市中央卸売市場の関連事業者である。

(二)  したがつて、これと競合関係を生ずる被告の本件処分は、原告に多大の損害をもたらすものである。

4  ところで、被告が行つた本件処分による訴外会社の非取扱物品の販売期間は、昭和六一年四月一日から昭和六二年三月三一日までの一年間とするものであつて、現在右期間を経過しているが、被告は、従来から右販売許可を一年毎として毎年継続しており、昭和六二年四月一日以降も引き続き販売期間を一年とする同様の許可処分を行つてきた。

したがつて、本件処分の販売期間が経過したとしても、本件処分の無効確認がなされないかぎり、今後も同様の許可処分が行われることが明らかであるところ、右許可処分の無効確認訴訟を提起しても一年以内に訴訟が終了する見込みがなく、もし、販売期間の経過により訴えの利益がないものとすると、原告が受ける権利侵害は永久に救済されない結果となる。原告は、本件処分の無効確認の判決を得ることにより、今後被告が無効な許可処分をすることを防止する実益があり、かつ、無効な許可処分によつて原告の蒙つた損害賠償を求める実益があるのであつて、原告は本件処分の無効確認を求める確認の利益を有する。

5  本件処分は、次の理由により無効である。

法一五条一項は、「中央卸売市場において卸売の業務を行なおうとする者は、農林水産大臣の許可を受けなければならない。」、同条二項は、「前項の許可は、農林水産省令で定める市場及び農林水産省令で定める取扱品目の部類ごとに行なう。」と定め、同法施行規則(農林水産省令)二条は、これを受けて、取扱品目の部類について、「青果部」「水産物部」「食肉部」「加工食料品部」「花き部」の五か部を掲げ、青果部については、「野菜及び果実並びにこれらの加工品を主たる取扱品目とし、並びに開設者が業務規程で定めるその他の生鮮食料品等を従たる取扱品目とするもの」と規定する。

訴外会社は、取扱品目の部類を青果部として、農林水産大臣から卸売業務の許可を受けている。

一方、開設者が定める業務規程たる条例の施行規則四八条には、「卸売業者は、その許可を受けた取扱品目の部類に属しない物品を受領し卸売をしようとするときは、非取扱物品販売許可申請書を市長に提出し、その許可を受けなければならない。」との規定がある。

しかし、卸売業者に対する取扱品目の許可権限は、法一五条に明らかなとおり、農林水産大臣に属し、被告にはない。したがつて、条例施行規則四八条は、法一五条に違反する無効な規定である。

仮に、農林水産大臣の認可を受けた法九条所定の業務規程たる条例中に、卸売業者の非取扱品目の販売について被告が許可することができる旨定めたときは、被告が非取扱品目について許可処分をなしうると解する余地があるとしても、条例には、卸売業者に対する非取扱品目販売の許可規定は存在しない。したがつて、条例施行規則四八条は、条例の委任に基づかない無効な規定でもある。

ところが、被告は、右条例施行規則四八条に基づき、卸売業者である訴外会社に対し、本件処分を行つた。

よつて、本件処分は、重大かつ明白な瑕疵があり、無効である。

二  被告

1  本案前の抗弁

関連事業者の業務は、市場を充実し効率的に機能させるための便宜上の観点から特に条例により認められているものである。関連事業者に特定の物品の販売許可を与えることは直ちに卸売業者等が当該物品を取扱品目とすることを排除することにつながるものではない。原告は、卸売業者の取扱品目との競合を理由に損害を主張しうる立場にない。

2  請求原因に対する認否及び反論

(一) 請求原因1及び2の事実は認める。

(二) 請求原因3のうち、(一)の事実は認め、(二)の主張は争う。

(三) 請求原因4のうち、本件処分による訴外会社の非取扱物品の販売期間が、昭和六一年四月一日から昭和六二年三月三一日までの一年間とするものであること、現在右期間を経過しているが、被告は、従来から右販売許可を一年毎として毎年継続しており、昭和六二年四月一日以降も引き続き販売期間を一年とする同様の許可を行つていることは認める。

(四) 請求原因5のうち、原告主張の条項が存在すること、訴外会社が取扱品目の部類を青果部として農林水産大臣から卸売業務の許可を受けていることは認め、その余の主張は争う。

(五) 本件処分は、以下のとおり適法なものである。

すなわち、卸売業者に対する農林水産大臣の許可は、主たる取扱品目についてその部類ごとに許可すれば必要かつ十分であり、従たる取扱品目の販売については市場開設者の許可で足るというのが法一五条及び法施行規則二条の趣旨である。

訴外会社は、主たる取扱品目として野菜、果物及びこれらの加工品につき農林水産大臣の許可を得ているから、従たる取扱品目である花きを販売するについては、開設者たる室蘭市(又はその長たる被告)の許可を受ければ足る。

条例施行規則四八条は、条例三条の規定を受けて、被告から従たる取扱品目の許可を受ける手続を定めたもので、法一五条及び条例に違反するものではない。

したがつて、条例施行規則四八条に基づく本件処分は、適法である。

第三証拠<省略>

理由

一  請求原因1、2及び3(一)の各事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、原告が本件処分の無効確認を求める原告適格を有するか否かについて検討する。

1  行政処分の無効確認の訴えを提起できる者は、まず、「当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者」又は「当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者」のいずれかの要件を満たすことが必要である(行政事件訴訟法三六条)。

2  ところで、前者の要件に関しては、本件処分についてはそれに続く処分というものは存しないから、原告は本件処分に「続く処分により損害を受けるおそれのある者」に該当しないことになる。

3  次いで、後者でいう「確認を求める法律上の利益」とは、行政法規が私人等権利主体の個人的利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を課していることにより保護されている利益をいい、その利益は当該処分の根拠とされた行政法規が当該利益を一般的、抽象的にではなく、個別的、具体的な利益として保護する趣旨を含むか否かによつて決せられるべきものと解するのが相当である。

これを本件についていえば、本件処分の根拠となつた実体法規が取扱品目の競合する関連事業者の利益を一般的、抽象的にではなく、個別的、具体的な利益として保護する趣旨を含むか否かによつて決せられるべきこととなる。

そこで、これを本件についてみるに、法は、卸売市場の業務が公益的性格が強いことにかんがみ、卸売市場の開設、卸売市場における卸売その他の取引に関する規制等について、「卸売市場の整備を促進し、及びその適正かつ健全な運営を確保することにより、生鮮食料品等の取引の適正化とその生産及び流通の円滑化を図り、もつて国民生活の安定に資することを目的」とし(一条)、そのような見地から、中央卸売市場の開設を農林水産大臣の認可にかからしめ(八条)、その認可の申請に際しては、市場の位置・面積、取扱品目、開場の期日・時間等を定めた業務規程を添える(九条)こと、さらに、中央卸売市場で、卸売の業務を行おうとする者は法一七条の基準を要件として、農林水産大臣の許可を受ける必要がある(一五条)ことなどを規定している。また、室蘭市は、右規定を受け、業務規程として条例を、その細則として条例施行規則をそれぞれ定めているが、同条例においても法一条と同一(異なる点は「国民生活」とあるところが「市民等の生活」となつているに過ぎない)の目的を有するものと規定している(一条)。これらから明らかなとおり、法及びその関連法規は、卸売業務を行う者及びそれ以外の関係事業者の業務の許可を含め、卸売市場の整備の促進、卸売市場の適正かつ健全な運営の確保、生鮮食料品等の取引の適正化、生鮮食料品等の生産及び流通の円滑化、国民生活の安定の確保という公共の利益の確保実現を目的とするものといわなければならない。

他方、法九条二項六号、条例二九条以下は、関係事業者(関連事業者を含む)に関して規定するところ、法九条二項六号は先の業務規程に定めるべき事項の一つとして「卸売の業務を行う者以外の関係事業者に関する事項」と規定するに過ぎず、他方、条例二九条一項は、関連事業者の設置に関して「市長は、市場の業務の適正かつ健全な運営を確保するため必要があると認めるときは、市場機能の充実を図り、または出荷者、売買参加者、買出人(市場内において、仲卸業者から販売を受ける者をいう。以下同じ。)その他の市場の利用者に便益を提供するため、次に掲げる者に対し、市場内の店舗その他の施設において業務を営むことを許可することができる。(1)第三条で定める取扱品目以外の生鮮食料品等の卸売を行なう者、市場の取扱品目の保管運搬等を行なう者その他市場機能の充実に資するものとして、規則で定める業務を営む者、(2)飲食店営業、理容業その他市場の利用者に便益を提供するものとして、規則で定める業務を営む者」と規定しており、いずれも市場の業務の適正かつ健全な運営を確保し、市場機能を充実させ、市場の利用者に便益を提供するという目的から関連事業者を認可するとの立場を取つているものであり、これらは公益的見地から関連事業者を位置付けており、そこには関連事業者の個人的利益を個別的、具体的に擁護する趣旨は一切含められていないものといえるのである。さらに、法、同施行規則及び同施行令並びに条例及び同施行規則等の関連法規によるも、法上の卸売業者との関係についてはさておき(卸売業者との間の利益調整については、法一七条二項二号に規定がある。)、卸売業者の許認可等の際の関連事業者との利益調整のための規定や卸売業者の許認可等について関連事業者に不服申立権等を付与する等の関連事業者保護規定を見いだすことはできないのであつて、取扱品目の競合により生ずる不利益から関連事業者を個別的、具体的に保護する趣旨のものであることを窺わせるような規定は存在しないものと言わねばならない。

以上のとおり、本件処分の根拠となつた法規は、公共の利益の実現を目的とするものであり、他に関連事業者である原告の利益を個別的、具体的に保護する規定もないから、原告は、本件処分の無効確認を求めるにつき「法律上の利益を有する者」に該当しないこととなる。

4  したがつて、原告の訴えは原告適格を欠き不適法である。

三  よつて、原告の訴えは不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 畑瀬信行 小林正明 秋吉淳一郎)

別紙

品目   花き類(切花、鉢物、根物他)

販売期間 昭和六一年四月一日から同六二年三月三一日まで

販売方法 セリ売又は相対売

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